香原料いろいろ

私たちの身近にあるお線香や匂い袋。
その香りを生み出しているのは、木や花、実や樹脂など、自然から生まれたさまざまな素材です。
どれも昔から大切に使われ、人々の心を落ち着けたり、場を清らかにしたりしてきました。

ここでは代表的な香原料をいくつかご紹介します。

(※香りのイメージはあくまで個人的見解です。)

白檀(びゃくだん)

インド原産の香木。甘くやさしいウッディな香りは、古来より仏教儀式や瞑想に用いられてきました。落ち着きと清らかさを与える香りとして、日本でも広く愛されています。

沈香(じんこう)

熱帯アジアに産する樹木が樹脂化した希少な香木。産地や質によって香りが異なり、雅やかで奥深い香調が特徴です。古来より高貴な場や茶道の香席で珍重され、香道の中心をなす存在でもあります。

丁字(ちょうじ/クローブ)

フトモモ科の樹木のつぼみを乾燥させたもの。
インドネシアのモルッカ諸島が原産。
その形が釘に似ていることから、「丁子」や「丁香」と呼ばれます。
一種の甘さを感じさせながらも鋭い刺激と深みのあるスパイシーさが際立つ香りが特徴。
香辛料の「クローブ」として知られているほか、生薬としても使われます。
お香に使うと香りにアクセントが加わりま
す。

イメージ:歯科医院・薬草


桂皮(けいひ)

クスノキ科の樹皮を乾燥させたもの。
香辛料の「シナモン」や「ニッキ」として広く知られています。
独特の甘く温かみのある香りとスパイシーな風味が特徴。
お香に加えると全体がまろやかにまとまります。

イメージ:シナモン・ニッキ


龍脳(りゅうのう)

フタバガキ科の龍脳樹から採れる樹脂を精製して作られる白い結晶。
スーッとした清涼感と透明感のある爽やかな香りが特徴です。
少し薬草のような印象もあり、お香に加えると全体をすっきりと引き締め、澄んだ雰囲気を与えてくれます。

イメージ:龍角散・タイガーバーム


大茴香(だいういきょう/スターアニス)

マツブサ科(以前はモクレン科)の樹木である「トウシキミ」の果実を乾燥させたもの。
中国南部やベトナムが原産。
中華料理の香辛料として「八角(はっかく)」の名でも知られています。
ほんのり甘さがありながら、清涼感と独特の野生味のある香りが特徴。
エキゾチックな雰囲気を持つので、お香に加えると、香りに奥行きが出て深みが増します。

イメージ:中華料理・漢方薬


甘松(かんしょう)

オミナエシ科の草木の根茎を乾燥させたもの。
独特の重厚感のある香りが特徴で、ウッディーな香りに少しカビのような、土っぽいニュアンスが感じられます。
単体では個性の強い香りですが、白檀(びゃくだん)などと調合すると、香りに深みと濃厚な甘みが加わります。

イメージ:動物小屋


藿香(かっこう/パチュリ)

シソ科の植物の葉を乾燥させたもの。
湿った土や森を思わせる、深く落ち着いた香りを持ちます。
時間が経つにつれて深みと複雑さが増すという特徴があり、調香によってお香全体の持続性を高める役割を果たします。

イメージ:枯れ葉・墨汁


山奈(さんな)

ショウガ科の植物であるバンウコン(蕃鬱金)の根茎を乾燥させたもの。
さわやかさの中に独特の辛みを含んだスパイシーな香り。やや薬草的でクセがある。
お香に加えると全体にアクセントを添えます。

イメージ:ペットショップ


乳香(にゅうこう/フランキンセンス)

カンラン科ボスウェリア属の樹木から採れる樹脂
アフリカや中東が産地。
柑橘を思わせるような明るい香りに、樹脂らしい落ち着きが混ざった清涼感のある香りが特徴。

イメージ:柑橘風味の粘土


安息香(あんそくこう/ベンゾイン)

熱帯樹木の樹脂。ほのかに甘くバニラのような香りで、香りをまろやかにまとめる「調合のつなぎ役」として活躍します。匂い袋や文香にもよく用いられます。


おわりに

香原料は、それぞれの産地や性質によって香りの表情が異なります。

単独で香るものもあれば、調合されて奥行きを増すものもあります。

こうした素材の個性を知ることは、お香を楽しむ第一歩。

ぜひ一つひとつの香りに耳を澄ませてみてください。